ミレニアル世代の沈黙

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映画INCEPTION(インセプション)で描かれる虚無とラストについての考察

久しぶりにクリストファー・ノーラン監督作品の「INCEPTION」を見たので整理がてら考察をしてみる。
ちなみに2010年公開の映画だから、今更だがネタバレは含むので今後見る人は回れ右して欲しい。
※ただ1度見たら考察ブログを漁る事になると思うので、その時は再訪をお待ちしている。

インセプション [Blu-ray]

作品概要

基本的には「夢(=深層心理)」の共有を行う事で他人を動かそうという話。
物語はだいたい下記の流れで進み、わりとアクションやスパイ物の王道路線の構成だと思う。

  1. 過去の仕事

  2. 無茶な依頼(けど断れない)

  3. 仲間集め

  4. 計画実行

  5. 伏線回収かと思いきや含みをもたせるエンド

そんなありふれた構成だが、そう感じさせないのは「夢」と「現実」など対となるパラドックスを用意する事で作品に奥行きと観客の考察が生まれる「隙間」をうまく作っているからだと思う。
実際にクリストファー・ノーラン監督はこの「隙間」を創るのがすごくうまいと思う。
特に「メメント」では「記憶」と「記録」を使ってそのつなぎ目に「隙間」をうまく作っていたと思う。

メメント [Blu-ray]

キーポイント

まずは映画の中で夢の中の階層が描かれているので、そこを今一度整理する。

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図示したように、夢は階層構造になっており誰かの夢を共有している。
そしてその中にターゲットを誘い込んで、現実と思わせたり深層心理を投影させる事で秘密(=アイデア)を暴くというのがベースとなっている。
※上の全ての夢でベースとなるものは全てアリアドネが設計していると思われる。(故に設計士で全ての階層に同行しているのだろう)

また本作品を理解する上でポイントとなるのは下記点だと考えている。

  • コブの最優先事項
  • 虚無と呼ばれる世界の在り処
  • 最後は現実なのか夢なのか

それぞれについて、掘り下げていきたいと思う。

コブの最優先事項

ここが話の起点にもなっていて、コブ自体2つの願いを持っている。

  • 妻を失いたくない(それが夢の中であったとしても)
  • 子供たちに会いたい(それは現実でしか叶わない)

そしてその優先事項の間を揺れ動く事で物語が進んでいく。

まず、サイトーからの依頼を受ける時には、「子供たちに会いたい」が強くなっている。
だからこそ報酬全てをユスフに渡してでも、仕事を成功させようとしたのだろう。

しかし随所で顔を出すのが、「妻を失いたくない」という気持ちであり、それによりロバートを虚無の世界に貶す事にもなる。
このどっち付かずの状態がアリアドネに言わせれば「深層心理に抱える問題」であり、コブが禁断の記憶の再現を行っている根本原因でもあるのだろう。

そしてそれが強く描かれたのが、コブがモルに行った「インセプション」で、モルの深層心理で止まっていたコマ(=ここが現実)を回す事(=ここは夢)で現実に戻ろうとする思考が強くなりすぎた結果、妻を失っている。

その経験をアリアドネに話す事で、深層心理に変化が起きているのだろう。
ちなみに最下層のコブの夢で最後にモルが息絶えるシーンが描かれているが、これはアリアドネに打たれたからではなくコブの深層心理の変化で死んだのではないかと考えている。

最終的に選んだのは「現実」であり、それは「子供たちに会いたい」という結果を求めてのものだったのだと思う。

虚無と呼ばれる世界の在り処

ここはあまり正確に読み取れていないが、コブの話しぶりから推測するに下層で目覚める条件が整ったのに、上層では目覚めない時に陥る世界のようだ。
そしてそこから目覚めるには、条件が必要でその条件は上の階層で目覚める条件が整っている(=キックされている)且つそこにたどり着く自分の中の芯を思い出す事なのだろう。

事実コブも復帰した過去がある事を話している(=これはおそらくモルとの世界)し、最後に飛行機からサイトーが電話をかけている(=約束を忘れていない)所からも確認できる。

しかし、一個腑に落ちないのが、ロバートがイームスの夢の中で死んだ時に、何故コブの夢で見つけられたのかという事だ。

アリアドネとコブは機械をつなげて夢の共有をしているが、ロバートとモルの死体はつながれていなかった。 故にロバートはコブの夢に入るとは限らないと思うのだが、事実コブの夢で見つかってアリアドネに殺される事で上層に回復していっている。
※イームスの夢で死んだはずなのに、何故か生き返って親父と会ったのも謎。。。
 本来ならそのまま更に上層にあがってホテルに戻りそうなものだが、、、

かなり無理矢理感が出るが、一度虚無の世界を出入りした人間はそこに行き来できるのであれば話は通じるが、そのためには虚無の世界はシリアルな世界である必要があるし、そこをモルとコブだけで好き勝手できるのかという疑問もある。

という事でここは別ブログも参考に漁ってみたいと思う。

最後は現実なのか夢なのか

これは正直現実でしかないと思う。(少なくともコブにとっては)
その理由としては下記描写が挙げられる。

  • 父親が出て来る事
  • 子供の顔が初めて見えた事
  • サイトーが約束を守っている事

今まで現実として描写されていた世界にしかいなかった父の姿が描かれ、夢だと消えるとされていた子供の姿が描かれている。
それしかなかったら、あまり隙間が生まれなかったのだが、最後のサイトーの描写が気になる。

サイトーが虚無から復帰した描写はどこにもなく、虚無の世界観は明確には表されていない。
それ故にコブが描いた夢なのではないかと考える事もできなくはない。

だが、コブが大事にしていたトーテム(コマ)で現実を確認しなかったという事は、どっちでもいいという事なのだろう。
そしてその夢を描く事は、あれだけ記憶を再現していたコブにとってはいつでも出来た事であり今更やる理由もない。

そう考えると、サイトーを虚無から救いだし全ての仕事を終えて現実に戻ったとするのが妥当だと考える。

もちろんそもそもが夢の中という仮設もあるが、それこそがパラドックスでありこの映画の主テーマなんだと思う。

そしてその世界を狂わす存在が虚無でありモルである。
そのモル(=虚無)に別れを告げたコブが戻るのは現実しかないだろう。

最後に

色々見て思った事を書き込んだが、正直一番のメッセージは「本当に大切なものは何か」という事だと思う。
そしてそのために色々リスクを取ってやりきったとしても、最後に不安は残る(だからこそ最後にコマを回したのだろう)けど、それでも自分が現実だと信じる場所で本当に大切なもの(=子供たち)のために生きていくのだ。

それは現代の人々がみな悶々と抱えるものだと思う。

今日から新しい期が始まる。
何のために生きるのか、それを今一度見つめ直し、現実を生きていこうと思う。